スイスにおける外国人学生の滞在許可と労働許可について

篠原 翼

1. はじめに

 コロナウイルスが蔓延する以前,多くの外国人学生がスイスに留学のために滞在していた。その際に,日本人学生であれば,小さなバイトのようなものを行うことができると考えるかもしれない。しかし,スイスの法制度は,スイスにおける外国人学生の経済活動について多くの制限を設けている。そのため,ほとんどの外国人学生は,学期中のバイト等を見つけることは非常に困難であり,さらに,スイスの学位修了後もスイス国内で仕事を見つけられずに自国に帰国する例が多い。

 本稿は,スイスに留学する学生の滞在許可と経済活動の有無について,法的観点から簡単に示すものである。本稿を始める前に,滞在許可(titre de séjour)と労働許可(autorisation de travail)は異なるものであることに留意する必要がある

2. スイスにおける外国人学生のビザについて

 スイスにおける外国人を規律する法律は,『外国人及び同化に関する連邦法』(Loi fédérale sur les étrangers et l’intégration, LEI)であり,この法律に基づいて,滞在許可及び労働許可が与えられる。そのため,本法律の内容を正しく理解することが,スイスにおける外国人の取り扱いを正しく理解することに繋がると言える。ただし,スイスは,ヨーロッパ連合(EU)との間に国際条約,つまり,『人の自由移動に関するスイス連邦とヨーロッパ連合及びその加盟国との間の取極め』(Accord entre la Confédération suisse, d’une part, et la Communauté européenne et ses Etats membres, d’autre part, sur la libre circulation des personnes, ALCP)によって,第三国出身者(例えば,日本,中国,ロシア等)とEU圏内出身者で区別されていることに注意しなければならない[1]

 まず,スイスにおける外国人は,「経済活動を許可された外国人」と「経済活動を許可されていない外国人」に区別される。この区別は,外国人が各州から「労働許可」を取得しているか否かが重要となる。学生としてスイス国内入国する場合には,「経済活動を許可されていない外国人」としてその入国を許可されるため[2],原則として経済活動を行うための「労働許可」を取得していない状態で滞在することになる。ただし,これは第三国出身者に適用されるものであって,ALCPによれば,EU圏内出身の学生は,滞在許可と労働許可を共に取得できるため,スイス到着後経済活動を行うことが認められている[3]。例えば,ローザンヌに滞在する第三国出身の学生は,スイスに到着後,第27条1項の条件を満たすことで[4],「経済活動なしの滞在許可B」(permis B sans activité lucrative)を取得することになる。そのため,「労働許可」(autorisation de travail)の申請は別に行わなければならないが,この労働許可申請は,雇用者の強い意思が必要であるため,ほぼ不可能に近い。これ対してEU出身の学生は,ALCPが適用されることによって,「滞在許可B」+「労働許可」=「経済活動ありの滞在許可B」(permis B ALCP avec activité lucrative)を取得することになる[5]。そのため,EU圏内出身者の方が第三国出身者よりもスイス国内での就職は優遇されていることになるのである[6]

 次に,学生がバイトをする際に課される特別な規制について取り上げる。もし外国人が「労働許可」を取得した場合には,第三国出身者であれば,スイス到着後,6ヶ月間の経済活動は禁止され,その後は,セメスターの間は,週15時間以上の労働は禁止される[7]。後者については,EU圏内出身者にも適用される[8]

これらの規制の趣旨は,学生が勉学に集中する必要があることであるが,主な理由は,スイス国内の労働市場の保護であり,スイス国籍者であっても就職が厳しいスイスにおいて,優秀な外国人労働者の過剰な流入を防ぐ意図が裏側にある。それによって,実際にスイスに滞在している第三国出身者が,スイスで職を見つけることはほぼ不可能であるといってもいいだろう。その理由は,「労働許可」を取得するためには,雇用者がその人物でなくてはならないことを州に対して証明しなければならないからである。さらに,各州が「経済活動ありの滞在許可B」を付与することができる年間の上限数も決まっており,簡単に雇用主からの労働許可申請を承諾することはない。

 したがって,スイスの外国人学生に対する規制は,非常に細分化された制度に基づいて運用されており,これらを把握した上で,スイス国内に滞在する必要がある。現在では,コロナの状況によって,労働許可を取得することは,さらに困難となっている。

3. むすびに

 以上から,スイスにおける外国人学生に適用される規制は,非常に厳格なものであり,スイスに留学する学生には,まずこのような制度であることを知ったうえで渡航を決めていただきたい。スイスに滞在する以上,スイスの法規が適用されるため,日本人学生は,十分な注意を払わなければ,無意識に法規違反を犯しかねず,滞在許可が取り消されかねない。ゆえに,英語のみで滞在しようとするのではなく,スイスの主な公用語である,フランス語・ドイツ語・イタリア語のどれかをマスターした上での渡航を勧める。スイスは,自分の国籍国ではないことをまず自覚した上で,法規や決定に基づいて行動することが求められることが求められるからである。しかし,スイスにおける外国人法によって与えられる滞在許可にも多くの種類があり,これらを事前に全て理解することは困難であろう[9]。そこで,本稿がその第1歩となることを願い,さらなる外国人法の研究は別稿で段階的に行っていきたい。


 明治大学修士課程修了(LL.M)・ローザンヌ大学修士課程修了(LL.M)。

[1] https://www.admin.ch/opc/fr/classified-compilation/19994648/index.html

[2] Art. 27 al. 1 LEI :「外国人は,学業又は生涯教育のために以下の条件下で認められ得る。すなわち,(a) 当該外国人が予定された学業又は生涯教育を受講することができることを教育機関が認めていること,(b)外国人が適当な住居を有していること,(c)外国人が必要な資金手段を有していること,(d)外国人が予定された学業又は生涯教育を受講するために必要な教育水準及び個人的資格を有すること。」

[3] Art. 4 et 10 ALCP. 

[4] See supra note 2. 

[5] Art. 4 et 10 ALCP.

[6] さらに,EU圏内出身者であれば,滞在許可Bの更新が5年毎であるのに対し,第三国出身者であれば,その更新は,1年毎に更新しなければならない。更新の際には,当然更新費を支払う必要があり,第三国出身者の方がより多くの支出を要することになる。

[7] 例えば,https://www.unil.ch/bienvenue/fr/home/menuinst/etudiants-internationaux/permis-de-travail.html.

[8] Ibid.

[9] Voir https://www.travailler-en-suisse.ch/principaux-permis-travail-suisse.html.

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